樹木医が選ぶ桜の名木

日比谷アメニスグループ「エコル」の樹木医が選ぶ各地の桜の名木をご紹介していきます。
今回は、エコル代表取締役の神庭正則が三宅島の神着(かみつき)の大ザクラについて紹介します。

vol.5 東京・三宅島の神着(かみつき)の大ザクラ

三宅島 “神着(かみつき)の大ザクラ”・・・宙に浮いたラピュタの桜

大島のサクラ株
満開時の「神着の大桜」の夜桜 (提供:東京都教育庁地域教育支援部管理課文化財調査係)

大島のサクラ株

三宅島は東京から180kmほどの南方海上にある直径8kmほどの孤島です。島全域が富士箱根伊豆国立公園に指定され、島の中心に聳える雄山は噴火を繰り返しています。2000年の大噴火による全島民の避難そして2005年帰島許可が出て、観光客も次第に増加し始めていると聞いています。また、噴火によって破壊された植生や昆虫相など自然がダイナミックに日々刻々と遷移していると聞きます。わたくしが東京都天然記念物調査員として初めて三宅島に行ったのは、1993年の夏でした。三宅島にはビャクシン、堂山のシイそして神着の大ザクラの3本の東京都指定の天然記念物が脈々と生き続け、いずれも特徴のある樹形となっています。

今回紹介する樹木は、“神着の大ザクラ”というオオシマザクラの奇形の古木です。この大ザクラは、大空のどこからか飛んできてこの神着の地に突き刺さって生きているといったイメージを沸き立たせてくれる奇形の木です。これは、私の想像したこのサクラの履歴です。


(1) 数百年前、三宅島の北端でオオシマザクラの一本の木が林のはずれで日をいっぱい浴びて生きていました。

三宅島の神着(かみつき)の大ザクラ

(2) ある日、周りの林が無くなり、オオシマザクラの木は孤立木となりました。風除けの無くなったこのサクラは、台風や強い季節風で枝が折れ、ついには幹までもが折れてしまいました。

三宅島の神着(かみつき)の大ザクラ

(3) 幹の折れ口から病気(腐朽病)が体を侵し、幹の内部は腐ってゆきます。でも周りには生きた幹が残っているので新しい小さな枝が伸びていきます。

三宅島の神着(かみつき)の大ザクラ

(4) 枝が伸びて葉が沢山つくと、このサクラは折れた所から根(不定根)を出し始めました。自分の腐った幹の内部をつたわって根は深く地面を目指します。まるで植木鉢の中を根が伸びるように。三宅島は雨が多いので、根の生育を助けます。

三宅島の神着(かみつき)の大ザクラ

(5) 折れた所から出てきた根が地面に沢山到達して自分を支えることができるようになるまでに何年の歳月がたったでしょう。それらの根の周りで植木鉢の役割をもち根の成長を守ってきた親ともいうべき幹は腐り果てて跡形もなくなりました。 今、残って見えるのは、空中から出てきた根が地面に突き刺さっている姿です。

三宅島の神着(かみつき)の大ザクラ

このような桜を見ていると、桜にはほかの樹木に比べて強烈であからさまな程の生き延ようとする意思があるように思えてなりません。わたくし達日本人が殊に桜を愛でる気持ちの中には、何かそれらに対する畏怖の念が自ずと含まれているのかも知れませんね。


(三宅島の神着の大ザクラについては、エコルのサイトでも紹介しています)


三宅島の神着(かみつき)の大ザクラ
東京都三宅島

神庭正則(かにわまさのり)

樹木医第一期生
日本各地の樹木の治療に携わる他、日本樹木医会の技術部会長としてタイ国にある世界最大の巨大チークの診断と治療に4年間携わる。現在、街路樹診断協会会長、樹木医学会編集委員、(株)エコル代表取締役を務める


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