樹木医が選ぶ桜の名木

日比谷花壇グループ「エコル」が、全国各地の樹木医が選ぶ「桜の名木」を紹介していきます。第7回目は、奈良県の吉野の桜の衰退原因を長年にわたって調査し、桜樹の保全に努めた天野樹木医の取り組みについて紹介します。

vol.7 奈良県吉野山の桜

約3万本のヤマザクラで構成される吉野山の桜

紀伊半島中央部大台ケ原に源を有する吉野川(下流は紀ノ川)の中流域にある“吉野山の桜”は一本の老桜ではなく、樹齢100年までのヤマザクラの、日本でも珍しい大きな集団です。標高差660mの山中に植栽された約3万本のヤマザクラは麓から山頂部へ約1カ月かけて開花していき、桜の木の下で桜花を楽しむよりも、地から天に向かって咲き満ちる桜の樹林を、遠方から愛でるのが特徴となっています。桜花とともに芽生えた新葉の淡い緑や褐色などの葉色もまた素晴らしく人々の目を楽しませてくれます。


樹木医としての私のスタンス

樹木医1期生として、主に奈良県内の神社仏閣の神木、名木、巨樹・古木の診断治療に携わっています。私の診断や治療の方法は、一本の樹木のみをとらえるというよりはむしろ樹木を森や林の樹木の集団に一員として捉え、周辺環境を配慮した考え方で、また根系特に細根の形態や菌根菌(根と共生して樹木に栄養分を受け渡している菌類、マツタケもこの一種)に関心を持って行っています。
各種講習会等の講師を務め、後継者の育成や緑化の普及啓蒙に努めており、また黄砂の源、黄土高原の緑化にも興味を持ち、菌根菌を活用した試験研究を現場スタッフと現地で行っています。


吉野山の桜の調査と回復への取り組み

この吉野山の桜は、吉野山約930haの面積の中に史跡名勝指定地として約37ha、約30,000本が人の手によって植えられています。有名なのは下千本、中千本、上千本と呼ばれる区域ですが、かつて桜が次々と枯れ始めるなど一時期急激に衰退し始めたことがありました。

私はその保護担当として平成6年から2年間かけ、吉野山の桜樹林が衰退した原因を調査しました。全域全本数をすべて調査した結果、主な原因がナラタケモドキというキノコによる土壌性の病気であることを突き止め、これはとってもセンセーショナルなことでした。同時にナラタケモドキ菌の病原性を実証するため、組織培養技術を用い無菌培養したヤマザクラに接種試験を繰り返し、そのナラタケモドキ菌の弱病原性を証明しました。

一方、現地調査観察から、過密な植栽、他の樹種による被圧、ヤドリギの寄生などが原因で衰弱したヤマザクラにナラタケモドキ菌が寄生したこともわかりました。ナラタケモドキを殺菌するために全山土壌消毒あるいは土壌の入れ替えを行うことは不可能であるため、桜樹の樹勢回復をはかり、ナラタケモドキ病を顕在化させない方策を検討。適正な植栽密度による日照・通風確保、施肥等の改善策を「吉野山桜活性化調査報告書」に取りまとめ、その中で吉野山の桜の復活方法を提案し、多くの人に桜山の実態を知ってもらうため地元説明会を繰り返し行いました。3年後、追跡調査を行ったところ、少しずつではありますが、樹勢が回復しており、改善策の成果が確認できたことはこの上ない喜びであり、その結果を「追跡調査報告書」として報告しました。

しかし、最近は桜樹の高樹齢化が目立ちはじめています。これは再植林に伴う忌地(いやち)現象等の可能性もあると感じています。吉野山の桜は文字通り山の中の桜です。これらの広範囲で莫大な桜の樹林の調査では、公園等平坦地に植栽された桜と異なり、山地の急斜面に悩まされ、雑木や雑草の生い茂った斜面の上り下りだけでなく、うるし類、野ばら類、マムシ等に悩まされ続けるといった困難が伴います。しかし、これからも人が植えたこの歴史ある桜を守り続けることは私たちの使命だと感じています。

桜の病害の要因と対策について

吉野山に限らず桜の病害に関する話をすると、神社仏閣にあるいは記念樹として植栽されている桜は枝垂れ桜も多いのですが、よく見るとその枝垂れた枝先端まで、花・葉をつけている桜樹は少ないのです。この枝垂れ桜の枝先端枯れの原因は“根系の衰退”が主因の場合が多いのですが、必ずしもこれだけでなく、幼果菌核病、ムネアカアワフキなどの病害虫に起因する場合も多くあります。病害虫の加害時期を外すとその原因を特定することは難しいので、樹木の病害要因の追究には、季節を問わずこまめな観察が必要です。

桜樹の枝剪定あるいは枝の切断跡、腐朽した部分の治療痕等の傷跡には、塗布剤等の農薬に替り日本古来より使われていた「墨汁」の塗布による腐朽防止も効果があり私はその効用に期待しています。


奈良県 吉野山

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天野孝之(あまのたかし)

樹木環境研究会議
ミルフィーユの会

樹木医1期生。主に奈良県内の神社仏閣の神木、名木、巨樹・古木の診断治療に携わっている。


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