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桜だより2012 > 特集2012 > ショートストーリー

ショートストーリー 桜のある風景

花信風(後編) 
ひとつの出会いときっかけによって、少しずつ変わり始めていく日常と自分。そこにまた新たな出会いが…。
 それは、そんな桜咲く穏やかなある日のこと。

 私は、いつものように取引している銀行に足を運んだ。担当者が変わったという通知が来ていたので、挨拶を兼ねて窓口に行き、投信の申し込みをしようと思ったのだった。投資信託を取り扱い始めたその銀行には顧客担当という女性が何人かいて、窓口にはファイナンシャルアドバイザーという肩書きの女性が何人か座っていた。

 「ご来店ありがとうございます。私が新しく担当になりました佐々木です。」

 はじめ、そう言って微笑んだ彼女を見たとき私は何となく、心地良い風が彼女から吹いてくるような感じを受けて嬉しかった。この人とはなんだか気が合いそうだ、そう感じた。
「こちらこそ。よろしくお願いします。」

 それからは月に1~2回、理由をつけては窓口に行き、投信の申し込みや定期の作成の合間に彼女と話すようになっていった。その銀行は通っていたフラワースクールから近いこともあり、時折はレッスンの後に作った作品を持って立ち寄ることもあった。そんな時、彼女は必ずそれを見つけ
 「素敵なお花ですね。見せてください。」
と声をかけてくれた。
 「実は私の母もフラワーアレンジメントをやっているんですよ。いいなあ、と思っていつも見ているんですけど、私自身はなかなか始めるきっかけを失っていて・・・。」
 「そうなんですか。私もずっと以前から興味はあったんだけど、始めるまでに随分時間がかかったんです。でも、ちょとしたきっかけで始めてみたら、はまっちゃって。それからはあっという間にここまで来ちゃったんですけど。」
 「へえ。そうなんですか。」
お花の話ができるのが嬉しくて、私が思わず話す些細なことも彼女は興味深そうに聞いてくれた。
 「森山さん、あんな大きな会社にいらして肩書きもあって、お忙しいんじゃないんですか。それなのにしっかり自分の世界も持っていらして、本当にうらやましい。」
 「そんなことないですよ。」
私は正直ちょっと照れくさかったのだが、彼女のやわらかな物腰と笑顔を見ているうちに何となく自分の胸のうちを話したい思いにかられ
 「実は、いつかはフラワーデザイナーとして仕事をしてみたいなって思ってるんですけどね・・・。」
と言っていた。声にだしてから、あっ、やっぱり、こんなこと他人に話さない方が良かったかなと一瞬、恥ずかしくなったが、そんな私の目の前で彼女はそれこそぱっと花が開いたような笑顔になり
 「素敵。応援していますから頑張ってくださいね!」
と言ってくれた。

 私はこんなふうに自然に話ができる彼女との時間が好きだった。でも、彼女との付き合いは、本当に窓口だけ。「銀行員と顧客」という出会い方をした私たちが、その関係をどうしたらそれ以上深いものに発展させていくことが出来るか私には考えられなかったし、とりあえず窓口に行けば彼女と話しはできるのだから、そんな関係がいつまでも続くだろうと思っていたのだった。けれど、昨年の夏、突然その支店の支店長から、彼女が8月いっぱいで退職するので、9月からは担当が変わるとの葉書をもらった。

 その頃、私は仕事がとても忙しかったのだが、8月の最終営業日にどうにか休暇を取り、最後に少しでも話しが出来たらと思い、銀行に出向いた。しかし、彼女はもう窓口にはいなかった。係りの人にお願いをすると、彼女が奥から出てきてくれて30分ほど話すことができた。その時の会話もいつも通り何気ないものだったが、それでも私は彼女にせめてお別れを言うことができた。ほっとしたけれど何だか逆に寂しかった。

 心に穴が空いたような気持ちを抱えて家へ帰ると、ポストに淡い桜の押し花がついた手製の葉書が届いていた。それは、彼女からの私信だった。彼女が銀行を辞める決意をしたのは、インテリアコーディネーターを目指すためであるということ、その決意が出来たのはいくつかの偶然が重なったためで、その偶然の中のひとつが私との出会いだったということ、が書かれてた。

 ――森山さんはいつも素敵な笑顔で、お仕事もバリバリとされていて、また夢もお持ちになっていて私にとってとても魅力的な女性でした。これからも頑張ってくださいね。応援しています。――その葉書はそんな文章で結ばれていた。

 思い起こせば、何年か前に会社の化粧室で先輩からの話を聞いて自分の夢を育みはじめた。そうして、今度はこんな私のちっぽけな存在が、一人の人を夢へと向かわせるひとつのきっかけになった。受け継がれていく夢を私自身、これからも大切に育てていこうと思う。そして今日もまた、新しい出会いの蕾を待ちながら。それぞれの場所でそれぞれの夢の花が、しっかりと開いて、実を結びますように・・・。

(おわり)
おわり

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