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桜だより2012 > 特集2012 > ショートストーリー

ショートストーリー 桜のある風景

sakuraロード
 僕とよしみは高校の頃から陸上部で、2人ともその県では一番強い大学に進学し、ずっと一緒に走ってきた。家が近所だったこともあって、早朝のランニングでよく合流し川の土手っぷちを並んで走った。

 大学卒業を控え、よしみはマラソン選手として実業団のチームから声がかかり東京に行くことに決まった。片や僕はどこからもそんな話は舞いこんで来ず、親父の伝手で地元の造園会社に就職することになった。

 よしみが東京に行く日の朝、土手の上に並んでいつものように僕たちは話した。

 「悠司君の会社って、どんな仕事するところなの?」
 「何か公園造ったり、広場造ったりするとこらしい。」
 「すてきね。」
 「そんなことない。よしみの方がずっと良いじゃないか。走れるんだから。」

 その時の僕の言葉にはいらいらした棘があったと思う。選ばれなかった僕はランナーとしてのよしみに嫉妬していた。よしみは僕の言葉が聞こえなかったのか、何も答えずに傍に落ちていたサクラの花をひとつ手に取った。

 「この土手、春になるといつもサクラが咲いていたね。私、マラソンしてる時も、ロード脇の花がいっぱいいっぱいずうっと咲いている風景をいつも想像してた。その花の中を走って行くんだって思うの。」
 「随分、ロマンチックなこと考えてるんだな。」
 「うん。でも、東京の道には咲いてないんだろうな。寂しいな。」
 「寂しいなんて思ってると負けるぞ。」
 「そう?」
 「そういう後ろ向きの気持ちでいると自分に負けるんだよ。」

 よしみは皆の羨望を受けて一人東京に行くことに不安を覚えていたのかもしれない。けれど、僕はその時そんなことなど考えもしなかった。そうして僕らは離れ、それっきりお互いの道を歩き始めた。


 女子マラソンのニュースはいつも気をつけて見ていたけれど、それから1年経ってもよしみの名前をニュースで見ることはなかった。一体どうしているのかと思いつつ、僕も仕事に慣れていくのに精一杯で、何となく連絡もしないままになっていた。そうして、2年目の春。県で開かれる大きな市民マラソンによしみが走りに来るという噂が流れた。「やっぱり、アイツ走ってたんだ。良かった。」と、僕は妙に心はずむ気持ちだった。

 市民マラソンの当日、僕は朝早くからマラソンコースの傍に立った。春だったから、あの薄桃色の花が土手にも町にもいっぱい咲いていた。僕は日の丸の旗の変わりに一枝のサクラを手に持って選手たちが来るのを待っていた。時間になり、一人二人と選手が通り過ぎて行く。だが、よしみは来ない。どうしたんだろう。

 結局、最後の一人が通り過ぎても僕はよしみの姿を見ることができず、花を手にぶら下げたままその場に立ち尽くしていた。

 その後、1週間くらい経った頃だったろうか。見なれないアドレスのメールが届いていた。発信者はよしみだった。

「悠司君、市民マラソン、テレビで見ました。サクラの花を持っている悠司君が映っていて本当にびっくりして、涙が出ました。もしかして応援に来てくれたの?私も本当は走る予定だったんだけど、ダメでした。東京に来てからすっかり走るのが怖くなってしまって、ずっと試合に出られないままに今まで来ました。悠司君が言っていた通り、私は自分に負けたのかもしれない。

 でもね、テレビでサクラの花を持っている悠司君を見たとき私、何だか自分がとっても小さくいじけた人間に思えたの。そうしたら、頭の中にあの頃の花いっぱいの道が広がってきて、走ることは楽しかったんだって思い出しました。次からはきっと試合に出られると思います。また、応援してね。 よしみ」

 僕はそのメールを読みながら思っていた。選ばれなかった奴も辛いけど選ばれた奴も辛いんだ。それでも、みんな前に進むしかないんだ。頑張れ、よしみ。頑張れ。

 「もちろん応援するよ。俺も頑張ってるよ。元気になれよ。」

 言いたいことは山ほどあったけど、それだけの返事を打って僕はメールの送信ボタンを押した。

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