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桜だより2012 > 特集2012 > ショートストーリー

ショートストーリー 桜のある風景

桜並木の約束
 田舎暮らしを経験する大学生のユウコ。わがままな子どもにふりまわされたあげく…!?
 大学時代は農学部だったから農業実習というのがあった。二週間、農家に泊まりこんで働くのだ。初めてお邪魔したのは、静岡の農家だった。カラダを動かすのは嫌いじゃないので仕事は辛くはなかったが、他人の家に下働きで泊まりこんでいると立場が悪い。お皿を洗いながら奥さんの愚痴を聞き、夜は内職の手伝いをしながらおばあちゃんの愚痴を聞き、子供の相手もしなくてはならず、そうして誰もがたまに家庭の中に登場した私をちょっとでも自分の味方に引き入れようと思っているのだから、3日もいたら気が滅入ってきた。

 奥さんとおばあちゃんの間に立つのは危険だと察知した私は、とりあえず子どもに集中するとにした。その家には2歳と5歳の男の子がいて、2歳がユウタ。5歳がケンタ。これが二人ともわがままだ。だいたい農家は奥さんが忙しいから、都会で言うようなしつけのアレコレなんて、誰も余り気にしている様子がない。だから初めはむしろ「ああ、今どき随分子供らしい子供だな。」なんて思って、奴らの悪戯をニコニコしながら見守っていたのだが、子供っていうのはどうしてあんなにずるがしこいのか、黙っていればいたずらは当然エスカレートする。

 特に私が下働きの学生でこの家の中では大きいことは言えないと知ってか、もうやりたい放題。私の頭にブリキのバケツをかぶせて「タイコオオ!!」と言いながら、連打する始末。これには、私も苦笑いを噛み殺し「テメエ、あんまりナメテンジャねえ。」と、奥さんに見えないように尻の一つもつねってやった。

 ある日の夕方、おばあちゃんは未だ畑に居て、奥さんは台所にいて、私だけが子供の世話で庭にいた。とりあえず2歳のユウタを抱っこして、おや、ケンタはどこに行ったかと見回すと、いつも入っちゃいけないと言われている古い納屋の柵を乗り越えようとしている。

 「何やってんの!入っちゃだめでしょ!」

 とりあえず私は大声で威嚇するが、なめられたもんで「アッカンベエ!」とか言いながらケンタの奴、悠々と柵を乗り越えていく。納屋の中には大きな歯車や鎌があって危ない。とりあえずケンタをとっつかまえてやろうと走り出し、柵を乗り越えようとしたところで、うっかりユウタを腕から落っことしてしまい、「しまった!」と思った瞬間、私の足が柵にぶつかり、バリバリバリ・・・ともの凄い音をたてて納屋の一部が崩壊した。

 地面に落っことされたユウタはわんわん泣いている。納屋損壊とユウタ号泣の大音響を聞きつけて、血相変えて奥さんが台所から駆け出してくる。

 「ちょっと、ユウコさん。何やってるの!?」

 奥さんの頬っぺたが怒りと興奮でぴくぴくしている。

 「すみません。申し訳ありません・・・。」

 私は頭を下げて、とりあえず納屋の修復の準備をした。


 考えてみれば悪いのはケンタじゃないか。全く頭に来る、あのガキは。だいたい、奥さんがちゃんとしたしつけをしないから、人の頭にブリキのバケツをかぶせるような子供になるんだ。みんな、忙しい、忙しいって子供を見ないから駄目なんだ。私がいる間にアイツを徹底的にしつけてやる!と私は密かに誓った。

 けれど、結局次の日から私がやったことといえば、ケンタを無視することだけだった。「ユウコ、見てみろ。」とケンタが何か持ってきても、「うるさいな。」と言う。「ユウコ、あっち行こうぜ。」と誘われても「一人で行きなよ。」と言う。その度にケンタがやるせなさそうな表情をするのを見てちょっと胸が痛んだが、私の実習期間はあと数日だ。もう少ししたらケンタだって、私がいないときの日常に戻るんだと、思った。

 実習最後の日、畑仕事を終えようとした頃、「とうちゃあん、迎えに来たぞ。」という声がした。ケンタだった。ケンタが畑に迎えに来たのは初めてだ。親父さんが、農具を片づけに行っている間を見つけるようにして、こそこそとケンタは私に話しかけてきた。

 「ユウコ、明日東京に帰るのか。」
 「そうだよ。」(やっと帰れるよ。嬉しいよ。)
 「東京は遠いのか。」
 「遠いよ。」(もう、あんたにバケツかぶされることもないんだよ。)

 と、ぶっきらぼうに返事を返していると突然、

 「ケンタ、大きくなったら遠い東京に行くぞ。だから、ユウコはケンタのお嫁さんになれ!」

 ケンタは叫んで、そう言い捨てると、夕陽の中をバアッと走り去っていった。私はひとりその小さな小さな背中を見ながら、ちょっとあっけにとられてポカンとして、それから何だかわからなくて笑い出した。

 畑の傍らの桜に、薄ピンクの花がたくさん咲いている。その周りを蜜の採集のためのミツバチがブンブン飛んでいる。

 その夕べ、ピンク色に染まった桜の花、ミツバチの羽の音。それが、さっきの小さいプロポーズの言葉と一緒にチカチカ・ブンブンと私の周りをはねて回っていた。

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