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桜だより2012 > 特集2012 > ショートストーリー

ショートストーリー 桜のある風景

花信風
 日々の仕事を黙々とこなしていく主人公。ある日、壊れたマシンを前に自分の中の何かが割れる気がして…。
 その日は夕方から雨だった。社内にいると雨の音は聞こえないけれど、窓の外には濡れてゆく桜の樹が見える。風も吹いているのだろう。花びらが歩道を散らかしている。天気予報はまたハズレ。ロッカーの中の置き傘、あったかしら?

 そんなことを考えていたら
 「森山さん、品川興産から電話入ってますよ。」
 呼ばれて、はっと振りかえる私に事務の高木さんが無言の苦笑いを返してくる。渋々電話に出ると、耳慣れた太い声が聞こえた。
 「あ、森山ちゃん?」
 「はい。そうですが。」
 「いてくれて良かったよ。もう、大変だよ。フリースなんだよ。どこ押してもね、動かないの。」

 また、このオヤジさんだ・・・。私が主任になってはじめてシステムを納めた不動産屋の部長さん。この辺りではかなり手広く商売をしているらしいけれど、初めて打ち合わせにいったとき、事務所は家内制手工業そのままの様相で、今だに事務の女の子は幼稚園のスモックみたいな上っぱりを着ているのには驚いてしまったっけ。

 私の納めたシステムが動かないのは、システムのせいじゃない。あなたが無知だから。だいたい私はあんたの友達じゃないんだから、「森山ちゃん」なんて呼んで欲しくない。それにシステムの「フリース」じゃなくて「フリーズ」だってば。何度言ったらわかるんだろう。
 胸元にどくどくと沸いてくる言葉すべてをぐいと飲みこんで、私は
 「そうですか。」
 と答えた。
 「来てくれるんでしょ?」
 と聞く声に
 「・・・伺います。」
 と返していた。


 「品川興産に行って来ます。」
 そう言いながらコートを着ようとしたら
 「ご苦労さん。」
 と誰かが言った。その声が、ちょっと「やれやれ」というような、「担当が俺じゃなくたよかったな」というような、「もうちょっとしっかり教えてやれよ、しょうがないな。」というような、それら全てを内包しているような、えもいわれぬぐちぐちしたものが滲んでくる感じで私は思わずバサバサッと荒い音を立ててコートを羽織り、部屋を出た。

 エレベーターを降り、玄関を出ようとしたところで、
 「あ、雨だった。」
 と思い出したけれど、部内の誰かに傘を借りに戻るのも面倒くさく、私はそのまま駅までの道を走って行った。


 品川興産から社に戻った時には、夜の9時を過ぎてた。システム屋の9時なんて、まだ序の口。これから、明日のための仕事もある。やれやれと思いながらエレベーターを待っていると、扉が合図と共に開いた。そこにはデスクトップを3台積んだ台車とウチの課の後輩2人だった。

 「どうしたの?」
 「あ、森山さん。これ、廃棄です。」
 「えっ、まだ使えるのに・・・。」
 「でも償却期間過ぎてるって。上からの指示っすから。」と後輩が言った。

 私は台車をガラガラと押して遠ざかっていく2人の背中を少しの間見ていたが、その後ふっと
 「待って!私も行く。」と、彼らの後を追いかけた。

 「森山さん、忙しいんじゃないんですか?いいっすよ。俺らでやりますから。」
 「ううん。やりたいから。」
 彼らの押す台車の後を歩き、着いたところは奥の会議室。3人がかりでそのマシンを台車から下ろすと
 「じゃ、いきますか。」
 と、後輩がハンマーを差し出してきた。私は少し躊躇した・・・が、次の瞬間、彼らは、
 「せーのっ。」
 という掛け声と共にマシンを壊し始めた。ガチャンと何かが割れる音がして、私は思わず目をつぶっていた。


 廃棄処分にするコンピューターは潰さなければならない。これがこの業界のルールだ。潰すと言っても言葉だけではない。実際に叩き壊して、壊れたところを証拠の写真に撮っておくのだ。このマシンは私が品川興産の案件を引きうけたとき、使っていたもの。だからこそ、最後を見届けてたいような気になって彼らの後についてきたけれど、来てみたら余計に後味の悪さだけが残ってしまった。
 結局、作業は彼らが全てやってくれた。
 「・・・ごめん。」
 とぽつりと言うと
 「いいっすよ。危ないっすから。」
 と、彼らの一人がこちらを見て微笑んだ。

 それから明日のための書類を整えて、会社を出た時は既に夜の11時を回っていた。駅まで歩きながら久しぶりに気持ちの底から「疲れたな」と思った。品川興産のせいか、さっきのマシンの廃棄のせいか。それもあるけど、それだけじゃない。連日の残業、人との会話の少ない職場、マシンを見つめる目・・・その全てが私を疲れさせた。

(つづく)
つづく

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