桜のいのちを守る

桜のいのちを守る 「桜守」 玉木恭介

桜の季節になるとよく話題に上るのが「桜守」ですね。
桜の木がいつまでも元気で花を咲かせてくれるように、健康状態を見守って処置をするのが「桜守」ですが、ではそれは樹木医のことかというと、そうではないんです。

 

まず桜をみる、という作業が大変地道でコツコツした積み重ねです。花はいつ咲いたか、つぼみの数はどうか、から、花の季節以外でも葉がいつ出た、茂り方はどうか、枝はどれだけ伸びたか、紅葉の赤み具合はどうか、いつ落葉したかなど、一年を通じて起こる桜の変化で健康状態を診断します。落葉ひとつとっても、桜が自分の体力で主体的に落すわけですから、健康でない桜はちゃんと落葉させることができないのです。
そういった状態を地道に観察して、過去の状態や他の木と比べたりするんですが、木は自分の力だけで育つのでなく、植わってる土壌や四季の季候の中で育っているので、周囲の環境の変化や時間の流れもよく知っていなければなりません。
桜に愛情を持っていないと勤まらないのはもちろん、地域に根差してその環境という視点から目を配っていないと、桜守にはなれません。

 

またそうして桜を見守る作業で異常が見られたら、早めにそれを察知して原因を把握して、適切な処置をせねばなりません。
そこではじめて樹木医の知識が求められます。木なんて放っておいても自然に生えてるじゃないか、と思われがちですが、桜は昔から人の手によって植えられるもので、環境に合わせるために人の世話がないと永らえることができません。吉野の山桜をはじめとする「桜の名所」と呼ばれるものは人によって植えられたものです。有名なお寺や庭園、公園、墓地はもちろん、治水工事をしたところなどもさかんに植えられたため、用水や川沿いも桜が多く見られます。元軍隊の駐屯地にも植えられていますし、山郷の桜などは昔の戦死者の埋葬のしるしとして植えている場合もあります。
そして桜は新しい土壌でないと育たないので、今植わっている桜が枯れたら同じ場所に桜は生えません。鳥に実を食べてもらって遠くの方で糞にまざった種子が落ちて発芽するような広がり方をします。だから桜は自然の長い営みの中では、どんどんシイやカシなどの常緑高木に場所を譲って移動していってしまうものなんです。
また、今日本の桜の実情90%以上が江戸時代に交配種としてできたソメイヨシノですが、この桜は生長が早い分だけ寿命も短く、60年とも50年とも言われていますから、戦前に植えられたものはもうとっくに寿命の時期なのです。加えてソメイヨシノは種をつけないか、つけても発芽しない品種なので、自力で繁殖する力もありません。

 

地域の努力などで環境が維持できると、山桜などは樹齢何百年という銘木まで永らえるんですが、桜の健康を維持するために、桜守は根を継いだり、周囲の地面の土を大量に入れ替えたり、土壌成分を改良したりあらゆる努力をします。
自然の中では移ろう性質を持っている桜を、そうした処置で人為的に活性化させて、その「うつろい」をストップさせているのが「桜守」でもあり、そういう点では自然の営みに反することをしているとも言えますね。盆栽技術にも通じる、自然の営みに人間の営みをシンクロさせようという自然との対話技術です。

 

桜は農耕民族である日本人が古来から春の到来を知る木として精神的な拠り所とし、こよなく愛されてきました。
そういう桜を代々に渡って守り続けたり、地域と連携してサポートしたりする桜守は、日本の精神文化や地域の風土や歴史を見守る存在でもあります。自称というより、周囲から尊敬の意をこめて「あの人は桜守だ」言われるのが相応しい名誉職といえます。

 

私も駒込の六義園のシンボルの枝垂桜と、小石川後楽園の枝垂桜が弱った時に声をかけられて以来、その木の桜守と呼ばれるようになりました。誇らしくもありまた、より桜への愛情が深まる思いです。樹木再生には成功しましたが、いつまでも見守り続けたいと思っています。



玉木 恭介

 

1950年生まれ、愛知県出身。東京農業大学卒業後日比谷アメニス、太陽スポーツ施設で造園、グラウンド潅水事業の技術開発や営業に携わる。駒込の六義園のシンボルの枝垂桜と、小石川後楽園の枝垂桜の再生を手掛け、以来その健康を見守る担当に。他にも浜離宮庭園の三百年松の管理をはじめ、様々な名跡公園の樹木を維持管理している。
現在東京都夢の島熱帯植物館館長として管理運営に携わる傍ら、地域や子供達へ自然環境教室などの教育啓蒙活動にも励んでいる。



玉木恭介が守る桜
六義園
【所在地】 〒113-0021 文京区本駒込6-16-3
【問合せ】 TEL 3941-2222 六義園サービスセンター  

【交通】 JR・地下鉄南北線「駒込」(N14)下車 徒歩7分

地下鉄三田線「千石」(I14)下車 徒歩10分


小石川後楽園
【所在地】 〒112-0004 文京区後楽1-6-6
【問合せ】  TEL 3811-3015 小石川後楽園サービスセンター  
【交通】  都営地下鉄大江戸線「飯田橋」(E06)C3出口下車 徒歩2分
JR総武線「飯田橋」東口下車 徒歩8分
東京メトロ東西線・有楽町線・南北線「飯田橋」(T06・Y13・N10)A1出口下車 徒歩8分
東京メトロ丸の内線・南北線「後楽園」(M22・N11)中央口下車 徒歩8分
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