日比谷花壇グループ「エコル」が、全国各地の樹木医が選ぶ「桜の名木」を紹介していきます。第10回目は、秋田県の仙北市角館地区の武家屋敷の通りに群生するシダレザクラの来歴や維持管理について黒坂樹木医のレポートを紹介します。
仙北市角館地区には元和6年(1620)に町づくりされた武家屋敷群が今も残っております。武家屋敷の通りをはじめ町内には約400本のシダレザクラが群生して「シダレザクラの群として他に類例を見ないものである」として、その内162本が国の天然記念物に指定されています。
このシダレザクラは明暦2 (1656) 年から当地を治めていた藩主と二代目の夫人が京都の出身であったことから、京文化の移入の中で、シダレザクラの種子か苗木が持ち込まれ植栽されたのが角館のシダレザクラの起源とされております。代々家臣の子孫の方々が受け継ぎ、大切に育んで、さらに増やしてくださったのが角館のシダレザクラとされています。花期には隣接する国指定名勝「桧木内川堤(サクラ)」とともに130万人以上の観桜客にその優雅な姿を見せています。
シダレザクラやサクラ類を優美な姿で見て頂くには年間を通した維持管理が不可欠であります。当地の開花期間は僅1週間から10日間位でありますが、花の量の多い豪華な花を見て頂きたい一心で、少ない費用で最大の効果を発揮すべく少ない人員が直営で日常の管理に当たっています。
また、文化財でもある天然記念物のシダレザクラを永く後世に継承していくため、平成11~19年度にかけ一連の保存事業を実施しております。シダレザクラが植栽されている場所は個人の庭で1本1本の生育環境がそれぞれ違い、その環境に応じ6種類の工種を組み合わせて保存修理工事を施工しています。日当たりを改善したサクラでは枝が伸張し回復の兆しが見られます。
サクラを綺麗に咲かせるには年間を通して多くの作業があり大変ですが、植物は手を尽くした分だけ応えてくれることや、観桜客の間を通り抜けたとき小耳に挟む「すごいな、すばらしいな」の声がこの仕事をして面白いところであります。多くの桜を残して下さった先人達の偉業に感謝をすると共に、出来れば生涯この種の仕事に従事したいと思います。
黒坂 登(くろさか のぼる)
前仙北市教育委員会
文化財課参事
(樹木医6期)