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桜だより2012 > 特集2012 > ショートストーリー

ショートストーリー 桜のある風景

花幽霊
 いつもと違うオフィスの雰囲気にざわつき始める女子社員たち。事態の収束を図る主人公の行動が思わぬ方向に…!
 「あ、まただ!」

 オフィスに足を踏み入れた途端に、私は感じる。スチール製の事務机とキャビネット、コンピューター機器、FAX、コピー・・・そんな無機質な空間に生じる小さな違和感。ふっと、かすかな風が吹いてくるような感じ。それは、窓辺に置かれた花瓶の花から流れてくる。
 今朝の花は紫陽花だ。


 窓辺に花が置かれるようになって、もう4ケ月になる。初まりは4月、一枝の桜からだった。ある朝、桜は唐突にそこに置かれていた。
 「わあ、きれい。この花どうしたの?」女の子達は見つけてすぐに騒いだ。
 「誰が持ってきたの?」と、この小さな事件の犯人を聞き訪ねたりしていたが、「はい、私です」と名乗りを挙げる人物はいない。
 「今朝、一番早く来た人が知ってるんじゃない?早く来たのは誰?」
 「一番乗りはいつも松岡さんよ。」

 話の矛先が私に回ってきた。私は入社以来35年間、いつも一番早くこのオフィスに来ている。1階の自動販売機で缶コーヒーを買い、部屋の入り口の鍵を開けて中に入る。その朝もそうだった。けれど私が扉を開けた時には、既に桜は窓辺の朝の陽の中で、うっすらと白い光を放っていたのだ。

 「ねえ、松岡さん、誰が持ってきたんですか?」
 「僕が来たときには、もうここに置いてあったよ。」
 「嘘…。じゃあ、鍵は開いてたんですか?」
 「いや、閉まってた。僕が開けたから・・・。」

 一瞬、しんとした空気が流れた。

 「気持ち悪い!」女子社員のひとりが高い声で叫ぶように言ったのに続いて、「やだ。」「こわあい。」などと女の子たちが騒ぎ始めた途端、パテーションの向こうから「うるさい!!」という怒鳴り声がした。

 「電話の声が聞こえないじゃないの。」声の主は、鬼塚女史だ。彼女は勤続の長いベテランで仕事も出来るし有能だが、性格的にびしびしと容赦ないところがあるので若い女の子達には煙たがられていた。

 「誰か酔っぱらった人が昨夜にでも持って来たんじゃないの?そうじゃなきゃ、勝手にどっかで折ってきたもんだから、言い出せないでいるんでしょ。どっちにしてもそんなことで、きゃあきゃあ騒いでいないで仕事しなさいよ。それから課長!」

 このやりとりをニヤニヤ眺めていた課長は、いきなり自分の名前を呼ばれて「は」と言って立ち上がった。

 「誰かわからない人間がオフィスに入った可能性があるというのは防犯上、問題なんじゃありませんか?一応、警備の方に報告した方が良いんじゃないでしょうか。」


 これは随分、大げさなことになってしまったな、と思った。この花を持って来た人物だって、ほんのちょっとした好意か悪戯かそんな気持ちだったのだろうに、こんなに騒ぎ立てられてしまっては今更「私がしたことです」とは言い出せずに、バツの悪い思いをしているだろう。まして、それが若い女性で会社に季節の花の一輪でも飾ろうというような親切心からしたことだったら、せっかくの気持ちが水の泡だ。

 「あのー、鬼塚さん、実は私なんですよ。」私は、ふと、そう言ってしまった。
 「え!?松岡さん?」先ほど叫び声をあげた女の子が振り返った。
 「いやぁ、ちょっと照れくさかったので。ごめんごめん。」
 「なあんだ。」と誰かが言い、騒ぎは落着した。桜は、その後3日間ほどオフィスの一隅をほのかに明るくしてくれた。


 けれど、この小さな事件には続きがあることを、私は知ることになる。1週間後、いつものように朝のドアを開けた私の目に、何か普段と違う白い影が揺れた。

 窓辺に花が置かれている。今度の花は、スノーフレークだった。

(つづく)
つづく

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